入江佑未子のライティングサンプル

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ねじまき鳥クロニクル  村上春樹

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この物語は、誰がこうしたからこうなって、その結果何が起こって、だから結果こうなったというように、理路整然とあらすじを説明できるような物語ではない。

え、なんで?で、どうなっちゃうの?この部分はいったい何を意味しているんだろう・・・とわからないまま読み進み、そして最後まで、「そうか、だからあれはそうだったんだ」、という納得は得られない。

いわゆる結論なきファンタジーであり、読中過程を楽しむための長編小説である。

 

見知らぬ女からの電話、妻の失踪、赤いビニール帽をかぶった女との出会い、ギギギ、とねじを巻くような声で鳴く、姿の見えない鳥。

失業中のオカダトオルのありふれた日常の中で起こる不可思議な出来事は、何人かの謎の人物の登場とともに展開していく。

その”非現実”は、過去と現在、そして「今この場所」と異次元への橋渡しをするように顕れ、彼が生きる現実と密接に、ときに間接的につながっている。

しかしそれらの出来事が具体的にどんな意味をもっているのか、ということははっきりとはわからない。

そこは、読者のイメージや受け取り方、感じ方に任されているのではないか。

村上春樹の小説は、彼の文章表現が作り出す空気感や読後の余韻を味わう部分が大きいので、十分に楽しむことができた。

また、この小説は現代を舞台にしているが、作中に書かれる戦時中の描写は鮮明で深い。戦争に詳しい読者なら、この小説の中で書かれる戦時中の話もより味わうことができるのではないかと思う。